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L'échappée belle 美しき逃避行/エヴァとレオン

フランス映画 (2015)

いかにもフランスらしい、ふわっとしたムードのプチ作品。エヴァは、19世紀のイギリスのジェントリーを思わせる父に似て、非生産的、かつ、非現実の世界に生きている。唯一の変化は山のように持っているメガネを複数持ち歩き、気分で取り替えることぐらい。35歳にして独身で、一度、アメリカの黒人とラヴし、堕胎したことがある。完全無職だが、凱旋門近くの豪華なアパルトマンで優雅に暮らしている。この大人になりたくない子供のようなエヴァが、ある日、ふとした偶然から、街角のオープン・カフェで11歳の少年レオンと出会う。孤児院にはいるが、匿名で生まれて捨てられたため、どこかに母がいると信じている少年だ。エヴァは、最初、レオンのなれなれしさに驚くが、なぜか跡をつけられてアパルトマンまで入って来られても追い出さず、ソファで眠らせる。そこから、この2人の、子供同士のような不思議な関係が始まる。ストーリーは、あり得ないほどファンタジックで、そこがまた楽しい。特に、レオン役のフロリアン・ルメール(Florian Lemaire)が100%可愛くて素敵だ。

孤児院から逃げて、はるばるパリの母の住所までやってきたレオンは、昨夜から何も飲み食いしていなかったので、住所の向かいにあるカフェに、朝早く1人で座っていたエヴァの前にちゃっかり座り、ホット・チョコレートを欲しいと頼む。この偶然の出会いが、エヴァとレオンにとっての運命的な出会いとなった。レオンは、席を立ったエヴァの後を追ってアパルトマンまで入って行く。35歳で未婚、働かなくても贅沢な暮らしのできるエヴァにとって、レオンの存在は、最初、新しいおもちゃでしかなかった。レオンが孤児院から逃げてきたと知ると、さっそく近くの警察に連れて行って引き渡そうとするが、そこで、「母に会うためにパリまでやってきた」レオンが逃げ出し、エヴァはより多くの時間をレオンと過すことになる。一緒にレオンの母の「住所」の家まで行き、忘れていた姉の息子の誕生会に遅刻しかけてレオンも同行させ、それが終わって駅まで送る途中で気が変わり、パリ郊外の父の広壮な館へと連れて行く。その後は、駅に行かずアパルトマンに戻り、その夜は、隣人の小説家と屋上で花火見物。翌日は、レオンを知人の館の野外パーティに場違いな格好で連れて行く。3日目、ローマにいる愛人からメールをもらい、1泊2日で出かけることにするが、誰もレオンを預かってくれない。結局、大きな衣装箱に入れ、寝台車に内緒で乗せて一緒にローマに行くことに。ローマでは愛人と喧嘩別れをし、レオンと楽しいローマの休日を満喫する。この頃には、2人の息はぴったりと会っていた。しかし、パリに戻ると、悲しい別れが待っている。法律上、孤児院の脱走者をいつまでも「保護」していると、犯罪行為になるからだ。レオンがいなくなったエヴァは、張りのない生活に耐えられなくなり、レオンの母が死亡したことが分かると、養子縁組の手続きをとることに決める。

フロリアン・ルメールは、17分の短編作品に出たことはあるが、映画出演はこれが初めて。それにもかかわらず、もう一人の主演者である35歳のクロティルド・エスムとぴったり息の合った演技を見せる。フロリアンの最大の魅力は、何といっても、その可愛らしさ。特に笑顔がとてもいい。最近は個性的な子役ばかりとなり、純粋に可愛い子役は稀少な存在となってしまった。


あらすじ

映画が始まって最初に映される豪華なエヴァのアパルトマン(1枚目の写真)。場所は、エヴァが乗るメトロの駅がクレベール(Kléber)なので、凱旋門に近い一等地だということが分かる。エヴァは35歳の独身パリジャンで、父は、凱旋門の西南西10キロにある森の町マルヌ=ラ=コケット(Marnes-la-Coquette)で、城のような大邸宅に住んでいる。あり余る財産を持ったエヴァは、仕事を持たず、漫然と日々を過している。7月14日の早朝、エヴァがオープン・カフェでコーヒーを飲んでいると、そこに1人の少年が現れて、突然、「一緒に座ってもいい?」と訊く(2枚目の写真)。「いいわよ」。テーブルに座った少年は、エヴァの前に置いてあったコップを勝手に取って水を飲む。それをチラと見て、変な子だなという顔はするが、文句は言わない。すると、少年が「ホット・チョコレート、もらえる?」と言い出す。信じられない要求なので、「何?」と聞き返す。少年は「お願い」とだけ言う。エヴァは、「いいわ」と、ホット・チョコレートをオーダーしてやる。エヴァが「君、どこから来たの?」と訊くと、エヴァの背後を指差して、「あっち」。「名前は?」。「レオン。あんたは?」(3枚目の写真)。とても人懐っこい笑顔につられ、「エヴァ」と答える。「お父さんは誰?」。「ナポレオン」。「実に謙虚な空想ね」。そしてメガネをかけ怖い顔になると、「正直に」と問い質す。「ナポレオンは200年前に死んだのよ。なら、君は何歳になる?」。「11歳」。「ほらね、不可能でしょ」。「11歳が?」。「ナポレオンの息子よ」。「どうして?」。「ナポレオンは君が生まれる前に死んだ。そして、子供はいなかった」。「いたじゃない、レグロンが」〔ナポレオン二世のこと〕。そう言うと、レオンは、テーブルの上に置いてあったエヴァのシガレット・ケースを開けて1本取り出す。「こらこら、小さな王子様。子供のことはあまり知らないけど、これはダメでしょ」と取り上げる。そこにホット・チョコレートが届く。エヴァは、「楽しんでね」と言うと、「さよなら」と席を立った。
  
  
  

レオンは、エヴァの後を追っていく〔ホット・チョコレートを飲んだとは思えない〕。公園の脇を通り、アパルトマンの並ぶ街路を進む(1枚目の写真)。エヴァが建物に入ると、ドアが閉まる前に素早く中に入る。エヴァは、エレベーターの四周に付いた階段を上がる。すぐ後を付いて行くレオン。小さな子供でなければ、ストーカー行為そのものだ。レオンは開いていたドアから中に入る(2枚目の写真)。このことは、エヴァがレオンの入室を認めたことを意味する。レオンはドアを閉めると、グランドピアノの前に座って鍵盤の蓋を開けるが、さっそくエヴァが来て蓋を閉める、「ソファで寝てもいいわ」とだけ言って寝室に入ってしまう〔早朝なのに 「寝る」 というのも変な気がするが、映画の設定は夕方ではない〕。レオンは、勝手にキッチンまで入って行くと、冷蔵庫から封の開いた飲物を取り出して飲む。やっていることはずうずうしいのだが、不良という感じは全くせず、むしろ控え目なので、観ていて不愉快さはない。
  
  

しばらくウトウトしたレオンは、キッチンでの音で目が覚める(1枚目の写真)。レオンがキッチンに行くと、エヴァがフライパンで目玉焼きを作っているが、上手くできなかったので、丸ごと捨てる(2枚目の写真、矢印)。目が合ったレオンはニヤっと笑う。「お腹空いてる?」。「少し」。エヴァは、「イチゴがあるわ」と言うと、テーブルにイチゴの入った陶器の鉢を置き、レオンに食べさせる。「で、どこから来たの? 逃げ出したの?」「ホールドアップやったの?」。この言葉に、レオンがニコッとする(3枚目の写真)。「やっぱりね。強盗って顔だもの」。レオンは、「ガレンヌの家から来たんだ。サン=マルタン=デ=シャンのね」と説明する。ブルターニュ半島の西端にある村で、パリの西450キロにある。これは、例えば、紀伊半島の先端から東京まで来た距離に匹敵する。「そこは何? 孤児院?」。「うん」。「孤児なのね?」。「ううん、いたいから いるだけ」。「からかってるの?」。またレオンがニコッとする。「電話番号教えて。ここにいるって電話する」。エヴァが電話でレオンのことを話すと、昨夜逃げ出したとの返事。ここで少し検証してみよう。サン=マルタン=デ=シャンから鉄道でパリに行こうとすれば、最寄の駅はモルレー(Morlaix)。駅までの距離は1キロ程なので歩いて15分。パリ行きの最終列車は19時24分で、23時10分にモンパルナス駅に着く〔日によって違うが、だいたいこの程度〕。乗車時間は4時間弱。後で、トイレに隠れていたことが分かる。かなり大変。モンパルナス駅に着いたら、そこで夜を明かす必要がある。駅から凱旋門までは4キロほど。駅を早く発てば、早朝にカフェに着くことは可能。かなり疲れていると思うので、レオンがソファでウトウトしたとしても不思議はない。さて、映画に戻ると、電話で孤児院側は、エヴァに「車をお持ちですか?」と尋ね、エヴァが否定すると、警察まで連れて行くよう依頼する。
  
  
  

エヴァはレオンを連れて警察に行く、長い列を見てイライラするエヴァに、レオンは「番号が呼ばれるまで待ってないと」と教える(1枚目の写真)。「いつも やってるの?」。「うん」。エヴァは、バッグから べっ甲色のフレームのメガネを取り出す。「どうして違うメガネをかけるの?」。エヴァはそれには答えず、「どうして逃げ出すの?」と訊き返す。「プチ・バカンスだよ」。それを聞いたエヴァは、メガネを外し、「かけてみて」と渡す。度が入っているので、目が痛い。エヴァが次に渡したのは、カラー・グラデーションのメガネ。「色がいっぱい」(2枚目の写真)。彼女は、あと2つメガネをかけさせ、「雰囲気を変えたい時、メガネを変えるのよ」と教える。いつまで待っても順番が来ないので、我慢のできないエヴァは、「ごめんなさい、時間がないの」と言って先頭に割り込む。受付の警官が、「飛行機ですか?」と訊くと、それには答えず、「街で小さな男の子を見つけたの。家〔foyer/孤児院の意味でも使われる〕に電話したら、ここに連れて来るように言われた」。「家〔foyer/家族、故郷などの意味の方が一般的〕ですか?」。「ええ」。「あなたは、その子のお母さんじゃないんですね?」。「知らない子よ」。「身元の分かるものはありますか? パスポートとかIDカードですが。フランス人ですか?」。「知らないわ」。「どこにいます?」。エヴァが振り返ると、レオンが逃げ出すところ。エヴァは慌てて後を追う。通りまで追って行き、「何してるの?」と訊く。「僕、やることが」。「私もよ。でも、君を放っておけないでしょ」。「どうしてさ?」。「危険な目に遭うかもしれない」〔児童暴行のこと〕。「どんな?」。「そんなこと言えないわ。どこに行くの?」。「母さんに会いに」。「孤児じゃなかったの?」。「僕、匿名で〔sous X〕生まれたんだ」(3枚目の写真)。「匿名出産」はフランス独自の制度で、出産後、子供を養子や養護施設などに預ければ、母親として身元を明らかにしなくても良いというもの。「お母さんを知ってるの?」。「ううん、住所だけ」。「どこなの?」。「今朝会ったカフェの向かい側」。「じゃあ、行きましょ」。しかし、行ってみると、そこには誰もいなかった。「また、今度来たら?」。「もうパリには来ない」。「じゃあ、駅まで送るわ」。
  
  
  

その時、エヴァの携帯が鳴る。それは、姉からだった。「どこにいるの?」。「私は…」。「ケーキを切るのを待ってるのよ」。エヴァは、今日が、姉の息子の誕生会だということを、すっかり忘れていた。慌てて、「今、そっちに向かってる」と嘘を付き、レオンの手を引っ張ってタクシーまで急がせる(1枚目の写真)。プレゼントなど用意していなかったので、バッグにあった小さな時計を取り出し、みがいて、タクシーの運転手から新聞紙を1枚もらって包む。その新聞紙が「リュマニテ(L’Humanité)」だったことで、後で姉から「ふざけないで〔Ce n'est pas drôle〕」と叱られる。「リュマニテ」は共産党系の新聞で、資産家の家系には相応しくないからなのだが、エヴァはそんなことなど全く気にしない。ようやく姉の家に着くと、「遅かったわね」と叱られる。エヴァは、姉が抱いている子供に、「元気、4番君?」と声をかける。姉は子沢山なので名前を覚えていないのか、単なる おふざけか? 姉:「一緒にいる子、誰?」。「友達の子供」。「友達なんかいた?」。エヴァが姉からどう思われているか、良く分かる。パーティが始まるまでに間があると思ったエヴァは、レオンを誘って子供部屋のある廊下に連れて行く。部屋のドアには、子供の名前が書いてある。アンドレ、キャプシーヌ、ジョルジュ、そして、ジャックまで来た時、エヴァは勝手にドアを開け中に入って行く。そして、クローゼットを開けると、レオンが着れそうな服を取り出して、バッグに入れる(2枚目の写真、矢印は緑色の半ズボン)。大胆と言うか、呆れてしまう。そこがエヴァらしいのだが。棚から出したチェック柄のシャツをレオンに見せ、「どう、カッコ良く見えるわよ」。「道化みたいだよ」。「でも、きれいな道化よ」。これで、レオンの着ているものが結構汚いことが分かる。そんな薄汚れた子供を甥の誕生会に連れて来るとは、エヴァも度胸がある。盗んだ服は、その場では着られないので、レオンはそのままの服装でパーティの場に戻る。出席した子供たち全員がおめかししている中で、レオンのよれよれの服がひと際目立つ。レオンは子供たちと一緒に座らず、後ろに立って、カラフルなキャンディーを確保している(3枚目の写真)。
  
  
  

2人は再びタクシーに乗り、駅に向かう。レオンは、所在なげに、さっき取ったキャンディーを食べている(1枚目の写真)。すると、突然、エヴァが「あの車の後をつけて」と運転手に言い、レオンが「アメリカの映画みたいだ」と笑う(2枚目の写真)。その笑顔があまりに可愛いかったからか、エヴァは「私のお父さんに会って見たい?」と尋ねる。軽く頷くレオン(3枚目の写真)。エヴァは、「行き先変更。マルヌ=ラ=コケット(Marnes-la-Coquette)にして」〔凱旋門の西南西10キロ〕と運転手に指示する。短いシーンだが、フロリアン・ルメールの様々な表情が楽しめる。
  
  
  

タクシーを裏門の前で降りた2人。レオンはそこで、さっき拝借したチェックのシャツと、緑の半ズボンに着替える。しかし、シャツの上から汚いブルゾンを着たので、あまりすっきりとは見えない。2人がそのまま歩いて行くと、急に視界が開け、一面の芝生の向こうに、白亜の3階建ての館が見える(1枚目の写真)。エヴァの父親が如何に金持ちかが分かる。エヴァの父は、カーテンを閉め切っ薄暗くした大きな部屋に1人でいた。父は、エヴァを「愛しい娘」と抱き締めると、レオンに気付き、「お客さんと一緒かね?」と訊く。「ええ、ダディ、レオンよ」。父は、「レオン、今日は」と握手をすると、「ティーはいかがかな?」と丁寧に尋ねる。レオンが黙っているので、エヴァに「フランス語、話せないのか?」と英語で聞く。「話せるわよ。圧倒されてるだけ」。部屋の一角には各種のパンやクッキーを並べたテーブルがあり、エヴァに「好きなの食べて」と言われたので、朝からイチゴとキャンディーしか食べてないレオンは、皿に山盛りに取る。エヴァは、イスにくつろいで座ると、「今日は、どうしてルーシーの家に来なかったの?」と英語で訊く。「気分が悪かった」。オウムがいることに気付いたレオンがじっと見ていると、父が「オウムは私が好きなんだ。なぜか分かるかね?」と尋ねる。レオンが黙っていると、「私に養われているから、そして、他に誰も知らないからだよ」と教える(2枚目の写真、矢印がオウム)。エヴァは、「一緒に散歩しない?」と誘うが、父は「ここが好きなんだ」と動かない。「閉じ籠もりは良くないわ」とエヴァが隣に座ると、父はリモコンで音楽を流し始める。お気に入りの曲だ。レオンが、「きれいだね。これ何?」と訊くと(3枚目の写真)、「サルダージ〔saudade〕)」と答える。ウィキペディアによれば、「郷愁、憧憬、思慕、切なさなどの意味合いの単語で、言い表しづらい複雑なニュアンスを持つ」とある。この人物の 現在のライフスタイルを象徴しているような言葉だ。この音楽を聴きながら、エヴァが「彼には両親がいないの。だから探している」と父に話す。この瞬間、「郷愁、憧憬、思慕、切なさ」は、レオンにも共通の言語となる。レオンも、まだ見ぬ母を会うことを切に願っているからだ。
  
  
  

パリに戻った2人が、パサージュを仲良く並んで歩いている。「お父さん、何してるの?」。「時の過ぎるのを待ってるの」。「そんなのあり?」。「ええ」(1枚目の写真)。「お母さんはどこ?」。「別の場所」〔認知症老人用の最高の施設〕。おもちゃ屋の前を通りかかった時、エヴァが「どんなオモチャがいい?」と訊く。レオンは「飛行機」と言ったのだが(2枚目の写真)、買ってもらえたのは鉄道模型だった。理由は、エヴァが飛行機が大嫌いで汽車にしか乗らないから。アパルトマンに戻った2人。レオンはさっそくレールをつなげて汽車を走らせようとする。その向こうでは、エヴァが同じように床に座り込んで本を積み重ねている。レオンが「このあと 何するの?」と訊くと、エヴァは「私には、『あと』というのは、『今』のことなの」と答える。レオンが改めて「今、何してるの?」と訊くと、答えは「橋を作ってる」。確かに、本の山を2つ作り、その上に大きな本を∧型に拡げて載せようとしている(3枚目の写真、矢印が∧型の本)。そして、「残りの時間は、好きなように使うわ」。「楽しい?」。「つまらない〔Bof〕」。何と怠惰でつまらない人生なのだろう。
  
  
  

レールが完成し、汽車を走らせていると、ドアのチャイムが鳴る。「誰が来たか、見てきてくれる?」。ドアを開けたレオン。にこやかに「今日は」(1枚目の写真)。「エヴァいる?」。「いるよ、あんた誰?」。「シモンだ。同じ建物の。君は誰?」。「僕はレオン。友達〔copain〕」。そう、この映画は、子供のような大人と、大人のような子供との友情の物語なのだ。だから、ここでレオンがエヴァのことを、よく使う「ami」でなく、「copain」と呼ぶことには意味がある。「copain」には、遊び仲間とか、ガールフレンドという意味が強化され、2人が対等の関係にあることを示している。シモンは、出て来たエヴァンに花束を渡す。そして、「7月14日はピクニックだったろ」と言う。「そうか、いつも通り、忘れてた」。エヴァはこれっぽっちも悪びれない。「じゃあ、行きましょ」。一緒に、ドアから出たレオンが階段を降りようとすると、「違う、上よ」と呼び戻す。ピクニックというのは、アパルトマンの屋上で夕涼みをし、暗くなったら花火を観ることだった。シモンは屋上に行くと、モーパッサン(1850-93)の短編『孤独』の一節を朗読する。レオンがシモンに、「仕事は何なの?」と尋ねる。「小説家だ」。「どんなもの書くの?」。「パッとしない。女性には好まれるが」。「ひょっとして求婚者?」〔求婚者(soupirant)という言葉は、省略したが、朝、レオンがジョンという男性からの電話を取り次いだ時に、エヴァが使ったもの〕。それを聞いて困ったように笑うシモン(2枚目の写真、背後に映っているのはモンマルトルの丘)。シモンは、「ぐさっとくるじゃないか〔Tu ne crois pas si bien dire〕」とシモンに言うと、「向精神薬ない? この子、俺を不安にさせる」とエヴァに訊く。エヴァは「もっと いいものがある」と言って酒瓶を渡す。3人は、そのまま暗くなるまで屋上に留まる。「今日は、何してた?」。「彼をルーシーの息子の誕生会に連れてったわ」。「それって、未成年者の誘拐みたいだな」〔フランスでは特に厳しい〕「来た所に帰した方がいい」。「来た所なんてない。だから、助けてるの」。ようやく花火が上がり始める。レオンは目を開けているのがやっとの状態。1日にこれだけ色々なことがあれば、疲れて当然だろう。最後は、シモンにソファまで運ばれる(3枚目の写真)。
  
  
  

翌朝、エヴァと会ったレオンは、飾り棚の上に置いてあるモルフォ蝶の標本に魅せられている。「すごくきれいだね」。「私も大好きよ」。「死んでるのに、生きてるみたい」(1枚目の写真)。「逆の方がいいわね」。「僕の母さん、どんなだと思う?」。「きっと素敵よ」。「匿名ってことは、僕を欲しくなかったんだ」。「ええ、そうね。だけど産んだでしょ。堕胎だってできたのに」。「『堕胎』って、何?」。「赤ちゃんを持たないと決めること」。「産む前、それとも、後?」。「前よ」。「殺しちゃうの?」。「違うわ。まだ、誕生していないから」。「どうして僕を 『誕生』させたのかな?」(2枚目の写真)。「分からないわ」。実は、エヴァはジョンの子を堕胎している。だから、この会話は、堕胎経験があり、母親になるのを拒否した女性と、堕胎されずに産まれた、母親から捨てられた子供の間での、切ないものなのだ。エヴァは2度目の電話を孤児院にかける。そして、「母親探しを手伝ってあげたいんです」と申し出る。照れて嬉しそうなレオン(3枚目の写真)。しかし、孤児院側の返答は、「その子は手元に置けません。違法です」と紋切り型だ。「お名前は?」と訊かれ、「Zelda Zonk」と偽名を伝える。そして、レオンには、「数日、ここにいられるわ」と声をかける。「ありがとう」。「でも、逃げ回らないと。ボニーとクライドね」〔往年の名画の主人公だが、レオンに通じたとは思えない。ただ、こうした発想に、何事も遊びとしか考えないエヴァの真骨頂が見てとれる〕
  
  
  

その日は、夕方から夜にかけて、友人の館〔父の館に負けない豪邸〕で野外パーティがある。エヴァは、レオンをそこに連れて行くつもりだが、どんな「テーマ」か忘れてしまい、仮装パーティだと思い込んでしまう。その手の店に入った2人が出て来ると、エヴァはアメリカのスーパー・ヒーロー風、レオンは緑色のドワーフ風に変身。しかし、パーティに行ってみると、テーマは「グレート・ギャツビー」〔1920年代のアメリカの上流階級風〕。2人は、完全に浮いている。レオンも、主催者に紹介されるが(1枚目の写真)、照れくさそうだし、そもそも「子連れ」なんて非常識だ。しかし、エヴァだから、それが許される。夜になり、全員が野外テーブルに座り、ディナーが始まる。エヴァは主催者の隣の席〔格が高い〕。その席で、主催者に「あの子は、誰?」と訊かれ、「彼は… “Homme” の息子」と笑いながら答える〔“homme” には一般的な男性という意味だけでなく、情夫という意味もある〕。そこで、「ジョンの息子かい?」という変な質問が出る。思わず笑ったエヴァは、「その “homme” じゃなくて、大文字の “Homme” よ、法王とかナポレオンみたいな」と、煙に巻く。それを聞いていたレオンの両側に座った2人の女性〔格下〕。エヴァの悪口を始める。挙句に、レオンに「どこから来たの」と訊き、「どこでもない所」と答えられたので、「触りたい?」とバカにする(2枚目の写真)。レオンも、「逃げ回ってる」と捨て台詞を投げかけると、エヴァに「もう、帰ろうよ。疲れちゃった」と頼みに行き、「あとちょっと」と言われ、テーブルから離れた石の階段に座ってじっと待つ(3枚目の写真)。
  
  
  

アパルトマンに戻った2人。階段で、シモンと出会う。3人で部屋に入り、空が白み始めた早朝、ハイになって踊りまくる。レオンがピアノの鍵盤を叩いていると、エヴァが「やめなさい、触らないの」と、止めに入る。これは、鍵盤をメチャメチャに叩いていたレオンの方が悪いと思うのだが、なぜかレオンは、エヴァのことを「子供じゃないだろ。たまには、まとも〔normal〕になったら」と文句を言う(1枚目の写真)。当然、エヴァは怒る。「『まとも』 って何なのよ?」。「他の大人みたいになること」。「自分は、『まとも』 だと思ってるの? 孤児院から逃げてきたくせに。誰にも好かれてないんでしょ。何様のつもり?」(2枚目の写真)「ここは、私の家よ。何が 『まとも』 かを決めるのは私なの!」。シモンはエヴァをベッドに寝かしつける。そして、レオンのところに戻ってくると、「物事がうまくいかない時、君ならどうする? 私はリストを作るんだ」と慰める。「どんなリスト?」。「ありとあらゆるもの。買いたいもの、行きたい場所、書きたい本、絶対やらないスポーツ、それに、ものにしたい女性もだ」。レオンの顔がほころぶ。「ジョンは成功したの?」。「ああ」。「彼女、ジョンを愛してる?」。「知らんな。たぶん。少しは」。「彼女、どうして怒ったの?」。「パニックになった。怖かったんだ」。「怖いって何が?」。「君に対する気持ちさ。君が好きになったのに〔Elle trouve que t'es chouette〕、帰さなくてはならない。だから怒鳴ったんだ」。「よく分かんないや」。「それこそ 『まとも』なんだ。なんせ相手は女性だからな。俺たちには理解できん」。そう言って仲良く横になる(3枚目の写真)。この映画、ふわっとして軽いが、台詞は良くできている。
  
  
  

早朝に寝たので2人とも朝は遅い。エヴァが起きてくると、レオンが紙に何かを書いている。シモン流にリストを作っていたのだ。エヴァは、冷蔵庫から牛乳を取り出すと、グラスに注いでレオンの前に置く。「僕、牛乳は飲まない」。「じゃあ、何なら?」。「さあ、水とかコーラとか」。「ないわ」。レオンはグラスを持ってシンクに行くと、牛乳を捨てて水道水を入れる。エヴァは、紙を見て、「それ何?」と尋ねる。「やりたいことのリスト」。エヴァは急に話題を変える。「ローマに行かないと」〔朝起きたら、ジョンからメールが入っていた:『ローマのサンタ・マリア・ホテルの5号室に来て欲しい』〕。「一緒に行っていい?」(1枚目の写真、グラスが白濁しているのは、捨てた牛乳のため)。「ダメ」。「お願い」。「ダメよ、捜索されてるんでしょ。誰かに面倒みてもらわないと」。「やだよ」。「嫌なら、駅まで直行よ」。エヴァは候補者を捜しに行く。ここで、レオンの書いたリストが映される(2枚目の写真)。一番上には、「ママに会う〔Voir ma mama〕)」と書かれ、最後に加えた1行は、「ローマに行く〔Aller à Rome〕」だった。エヴァが最初に向かった先は姉の家。話を聞いた姉は、剣もほろろに、「自分で責任を取りなさい」。エヴァは、そこにあった本を1冊借りて退散する。本の題は、最初にレオンと会った時に、レオンが口にした「レグロン」。あの時誤解していたので、読んでみようと思ったのだろう。次に行ったのが父の館。しかし、ドアからこっそり覗いただけで、頼むのは断念する。最後に行ったのはシモンの部屋。間の悪いことに、シモンはガールフレンドとセックスの最中。エヴァの依頼に対し、シモンは「何しにローマへ?」と訊き、「ジョンに会いに」と答える。これですべてご破算。シモンはきっぱり断る。「俺は君の召使じゃないし、猫を預かるのとは訳が違う」。結局、預かってくれる人はいなかった。
  
  

戻ってきたエヴァは、レオンに、「パスポートある?」と訊く。答えは、当然、「ううん」。「身分証明書は?」。「ううん」。「どうやって汽車に乗ったの?」。「トイレに隠れてた」(1枚目の写真)。この後、場面は、ローマに向かう寝台車のスイートルームに切り替わる。エヴァの前に置かれた大きな箱の蓋が開くと、中からレオンが姿を見せる。一種の密航だ。レオン:「飛行機に乗るの初めてだ」。「飛行機じゃないわ。汽車よ」。「どうして汽車なの?」(2枚目の写真)。「飛行機が怖いから」。レオンは箱から出て(3枚目の写真、さっきと反対側で、シングルベッドが見える。前の写真と合わせ、窓が2ヶ所についていることが分かる。因みに、着ている服は、姉の家から持ってきたチェックのシャツと緑の半スボン)。しばらくして、レオンが尋ねる。「ジョンのこと愛してるの?」。「少し」。「どうして、たくさんじゃないの?」。「私が望むようなやり方で愛してくれないから」。「それでも愛してるの?」。「ローマまで行くでしょ」。
  
  
  

ローマ・テルミニ駅から、ホテルに向かうタクシーの中で、レオンはサンルーフから上半身を出して解放感を満喫している(1枚目の写真)。座席に戻ったレオンは、「ねえ、エヴァ、妊娠したら、どうやって分かると思う?」〔これは、自分の母を想定した質問〕と尋ねる。「お乳が痛むのよ」。「どうして知ってるの? 子供いないじゃない」。「だからといって、妊娠しなかった訳じゃない」。「堕胎したの?」〔前にエヴァから聞いたからこそ使える言葉。そうでなければ、こんなこと、11歳の少年が言えるはずがない〕。「そうよ」。「どうして? 強制されたの?」(2枚目の写真)。「違うわ」。自分と違って、産まれることを「母親」に拒絶された事例を目の前にして、レオンは言葉を失う。ホテルに着いたレオンは、部屋に向かう途中で、「ジョンは何て言ったの?」と訊く。「お互いよく知らないのに、まだ早すぎる」って。「それって、いつのこと?」。「5年前」。ノックに応えてドアが開くと、満面の笑みを浮かべたジョンが顔を見せる。「やあ、来たな〔以後英語〕。エヴァは、さっきレオンから訊かれたことが念頭にあるので、いきなり、「なぜ赤ちゃんを産ませなかったの?」と糾弾するように訊く(3枚目の写真)。ジョンにとっては、いきなり昔の話を言われても理解できないので、「赤ちゃん? どの赤ちゃん?」となる。「私の赤ちゃん、要らないって言ったじゃない」。これでは、ローマまで喧嘩をしに来たみたいだ。「早すぎたからじゃなかったか?」。さっき自分で「早すぎる」と言ったくせに、エヴァは、「くたばれ(Fuck you)、ジョン、くたばれ」とにこやかに言うと、F言葉を大声で連発しながたホテルの廊下を歩いて行く。
  
  
  

外に出てから、レオンが「何を言ってたの?」と訊く。全部英語だったので、ちんぷんかんぷんだったのだ。「さよならしたの」。「母さんも、僕と さよならしたんだ」(1枚目の写真)。「私もよ。だけど愚痴なんか言わないわよ」。「言ってるよ、お腹の中で」。「分かったようなこと、言わないで」。「分かってる、泣いてるよ。いつも泣いてるのに、知らない… ろくに会いもせず、彼を振ったんだ」。「分かったわ。お利口さんね。何でも分かってる? 11歳でしょ。寝ながら親指吸ってるくせに」。「吸ってない」。「吸ってるわ」。「どうでもいいや」。「私もよ」。レオンが、「エヴァには家族がいるじゃない」と慰めるように言うと、「私の家族 見たでしょ? ゾンビ〔zombie〕)と意地悪女〔mégère〕」。思わずレオンが相好を崩す(2枚目の写真)。そして、「ミイラ〔momie〕とおばさん〔mémère〕」と切り返す。今度は、エヴァが声を出して笑う。頭のいい言葉遊びだ〔フランス語だと韻をふんでいるのが分かる〕。エヴァは、「もし、お母さんが、君に会いたくなかったら? 嫌だと言ったら?」と訊く。レオン:「でも、やってみる」(3枚目の写真)。
  
  
  

エヴァは、すぐ戻ろうと言うが、レオンはアイスクリームが食べたいという。「運がいいわね。ここはローマよ。世界一のアイスクリームが食べられるわ」(1枚目の写真)〔フランスでも、ジェラートは有名らしい。ただ、何が世界一かは選定基準による。フルーツ味とバラエティの多さならイタリアのジェラートだが、濃厚さならドイツのザーネアイス。私の好みではユトランド半島のソフトクリームは最高だった〕。レオンは、ローマらしいTシャツを買ってもらい、2人は『ローマの休日』のように街に繰り出す(2枚目の写真)。年齢差を通り越して、恋人同士の雰囲気だ。2人は、ローマ市街を眺望するヴィラ・メディチ(Villa Medici)の庭園テラスの手すりにもたれてジェラートを食べている。「どんな風に愛して欲しかったの?」。「もう一度」。「私が望むようなやり方で愛してくれない、って言ったよね」。「そう思っただけ」。「ジョンには子供、あるの?」。「3人」。「奥さんいるの?」。「ええ」。レオンは、気まずそうな顔でエヴァを見ると、「メガネ要る?」と話題を変える。レオンは、バッグの中に『レグロン』があったので、取り出して表紙を開いてみる。「歴史的な因果関係を有する家族の悲劇」。そう読み上げると、「僕たち、歴史的因果関係があると思う?」と訊いてみる。「ありそうもないけど、試してもいいわね」〔この時、すでに、養子にしたいとの希望があったのだろうか? 「試す」というのは、レオンが孤児なら養子にできるというニュアンスにも取れる〕。エヴァは、『レグロン』の一節を読み上げる。「…目には隠された光が宿っていた」。そして、レオンの目を見ながら、「隠された光が見える」と言う(3枚目の写真)。
  
  
  

夕方になるまでテラスにいた2人は、暗くなると、エヴァの先導でナイト・クラブに行く。普通なら、11歳の子供を連れて行かないような場所だ。カウンターに座った2人。レオンが、「どこで寝るの?」と訊く。「汽車の中」。「それ今夜?」(1枚目の写真)。「そうよ」。「ローマに来れてすごく良かった」。「私もよ。ありがとうって言いましょ」。「誰に?」。「手当たり次第」。「傘、ありがとう」〔ジュースに入っていた小さな紙の傘〕。「マルティニ、ありがとう」。「歌手さん、ありがとう」。エヴァがバーテンに「ムッシュー、あリがとう」、最後にレオンが「エヴァ、ありがとう」と締める。レオンの前に小さな花火付きのデザートが持ってこられる。「これ何?」。「ハッピー・バースデーよ」。「今日じゃないよ」。「お店は知らないわ」。「ずっと一緒にいたい」。「ママがいるでしょ」。「知らないもん」(2枚目の写真)。ローマ行きの最後は、パリ行きのスイートルームの中。シングルベッドに2人が逆向きに寝ている(3枚目の写真、かつてエヴァが言ったように、レオンは寝ながら親指吸っている〔矢印〕)。
  
  
  

パリに戻り、もう一度母の住所へ訪ねて行くが、やはり誰もいない。「お母さんに、手紙を書いたら?」の助言に従い、レオンは、最初に出会ったカフェのテーブルに座り、中味を見られないよう腕で隠して、手紙を書き始める。エヴァは遂に決心し、シモンに電話し、車を貸してくれるよう頼む。そして、テーブルに腰を降ろすと、名残惜しげにレオンを見つめる。「エヴァの住所、書いていい?」(1枚目の写真)。「いいわよ」。次の場面では、2人はもうシモンの車に乗っている。運転はエヴァだ。レオンが黙ったままなので、エヴァは「怒ってない?」と訊いてみる。「ううん」。「じゃあ、どうしたの?」。「誰に怒ってみようかなって」。「私にしたら?」。「そんなことしたくない」。どこかのパーキングで、山ほど買ったファースト・フードを食べている。「僕たち、ずっと 友達?」。「もちろん。手紙を書いたり、電話できるわよ」。「将来、一緒に住める?」(2枚目の写真)。「できないわ。私は、お母さんでも、お姉さんでも、従姉でも、代母でもないから。保護する資格がないの」。2人の車は、孤児院からの出迎えとの待合所に着く。そこには、もう若い男性スタッフが待っていた。男は、ドアを開けて、「すぐ行かないと。先は遠いから」と言う。車の前での別れの会話。「レオン、忘れないで、楽しい生活が待ってるわ。望めば、どんどん良くなるから」(3枚目の写真)。そして、最後に、一番派手なメガネを、思い出にとプレゼントする。レオンを乗せた車が出て行ってから、最後に渡してくれた紙切れを開くと、そこには、「僕はエヴァがいい」と書いてあった。
  
  
  

アパルトマンに戻って、1人で寂しく無為に時間を過すエヴァの姿が映される。別れて寂しいのは、レオンではなく、むしろエヴァの方なのだ。以前のように、ナイトクラブで1人で踊っていても、空しさが募るばかり。エヴァは、姉に、レオンのことを相談するが、逆に、姉から子育てで貯まったストレスをぶつけられる始末。認知症の母に会いに行っても侘しいだけ。しかし、その侘しさを父にぶつけ、これまで無視続けていた母に思いを馳せることができるようになる。一方、孤児院では、レオンが院長室に呼ばれていた。「CNAOPが、君の手紙を 産みの母親に送った。だが、返事は来なかった。CNAOPは知ってるね?」。「個人の出自へのアクセスに関する全国協議会です」。「その通り。返事する しないは彼女の自由だということも覚えてるね?」(1枚目の写真)「君は、連絡を取りたくないという彼女の意志を 尊重しなくてはいけないよ」。レオンは唐突に席を立つと、部屋を出ると、ローマでエヴァがしたように、F言葉を連発して叫ぶのだった(2枚目の写真)。
  
  

日付は、2016年8月13日(土)から10月13日(木)へ一気に2ヶ月飛ぶ。レオンが友達と元気に遊んでいると、そこにエヴァとシモンが車でやってくる。レオンは、喜び一杯に、「明日来るんだと思ってた」と寄って行く。エヴァは、「明日は都合が悪いから、今日来たの」と言って、レオンを抱きしめる(1枚目の写真)。シモンとは、手をパチンと合わせて挨拶。「いっぱい話すことがあるんだ」と言って、立て続けに話すレオンを、シモンが肩に担いでベンチまで歩いて行く(2枚目の写真)。レオン:「手紙書いたけど、届いた?」。エヴァ:「まだよ。でも、別の手紙が届いたの」。自分宛の手紙をベンチに座って読むレオン。そこには、こう書いてあった。「今日は、レオン君。私の名前はアルテュール。私の妻ジョセフィーヌに宛てた君の手紙を受け取りました。君は、11年前、彼女が匿名で君を産んだと書いていますね。私は、今、初めてそのことを知りました。彼女は、昨年亡くなりましたが、一度も君のことは話しませんでした。悲しい知らせになってしまい、申し訳ないと思います。彼女の写真を同封します。君は、きっと似てるんでしょうね。さようなら。レオン君」。母の写真をじっと見続けるレオン(3枚目の写真)。CNAOPから、無回答という返事があってから2ヶ月、レオンの手紙は回り巡ってようやく死んだジョセフィーヌの夫の元に着き、手紙にはエヴァの住所が書いてあったので、CNAOPではなくエヴァに手紙が届いたのであろう。
  
  
  

レオンにとっては悲しい知らせだったが、エヴァにとっては明るい兆しだった。レオンが天蓋孤独となれば、養子縁組の可能性が出てくる。そのためには、「養い親として適切な人間である」という認証を得る必要がある。映画では、エヴァがいろいろと書類らしきものを作成しているので、恐らく認証手続きをしているのであろう。エヴァは、また、動物の剥製を販売する店に出向き、蝶の標本が欲しいと言う。それも、前にレオンが使った「死んでるのに、生きてるみたい」な標本が欲しいと注文をつける。次は、先に登場した孤児院の院長室。院長が書類にサインし、それをエヴァに手渡す(1枚目の写真)。エヴァ:「どうもありがとう」。院長:「どういたしまして」。そして、「うまくいくといいですね」。さらに、「皆さんには、どう説明されますか?」と訊く。エヴァは「お互いが選んだと伝えます」と答える。「本当にそう信じておられるのですか?」。「奇跡が引き合わせてくれたんだと思います〔Je crois surtout que le miracle, c'est de se trouver〕」。この時のエヴァの笑顔がとてもいい。最後の場面は、孤児院のベンチ。エヴァが持ってきた蝶の標本をレオンに渡す。ガラスの蓋を開け、中の蝶に指の先で触ってみる。すると、あり得ないことだが、指の10センチ上の蝶の羽が閉じた(2枚目の写真、矢印)。標本の蝶は生きていた。2人の前で一斉に飛び立っていく蝶(3枚目の写真)。ふんわかムードの映画の最後を飾るに相応しい、夢見るような終わり方だ。2人の共同生活は、これからも上手くいくに違いない。
  
  
  

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